釧路市漁業協同組合

釧路市地域水産業再生委員会

「量」から「質」への転換
活締めブランド魚、『極』の創意工夫!

鮮度保持の工夫は、魚の価値を高める手段の一つだ。だが、鮮度と価値ともに高い魚であっても、ブランドとして認められるためにはそれ以外の工夫が求められる。ブランド魚の確立に際して行われた創意工夫を、釧路市漁業協同組合の活締めブランド魚『極』の取組みからご紹介!

目次

日本の「海の幸」を支えてきた町、釧路市

かつてあらゆる産業の動力を支えてきた資源、石炭。最盛期の日本では800以上の炭鉱で採掘が行われていたが、石油エネルギーが普及するにつれ、そのほとんどが姿を消した。いま国内で唯一営業を続ける炭鉱が、北海道釧路市にある釧路コールマインだ。

石炭の町で知られる一方、釧路市は「漁業・水産の町」だ。1969年から90年頃まで、釧路港の水揚量は毎年のように日本一を誇り、「北海道=海の幸」というイメージを作り上げたのは、ここ釧路と言ってもいいすぎではないだろう。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2018年2月14日開催)

釧路市の漁業は「魚種交替」とともに

北海道の東側、太平洋に面する釧路港は、古くはサケ・マスや沖合底曳網漁業などの基地としての役割を担っていた。およそ25年間にわたる水揚日本一を支えたのはイワシ漁で、平成初頭までの釧路漁業を支えてきた。だが、環境変化などにより漁獲量が縮減、現在はサンマ漁の基地として機能してきている。

しかし近年、ニュースでも知られる通り、サンマは港から遠方の海域に漁場を形成するようになり、水揚は縮小する傾向にある。その一方で、一度減少したイワシの資源量が回復の兆しが見えてきている。

時代とともに主要魚種の変遷を繰り返してきた釧路漁業の歴史は、「魚種交替」の歴史とも言えるだろう。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2018年2月14日開催)

安定的な収入源を目指して

組合員56名を抱える釧路市漁業協同組合では、シシャモこぎ網、カニ篭、エビこぎ網、刺網など様々な魚種・漁法で漁業が営まれている。日本有数の基地市場として知られる釧路港だが、浜の漁業者に目を向ければ、他地区と同様、資源環境の変化や漁業者の高齢化に悩まされていた。

「魚種交替」への対応を求められてきた釧路市漁業協同組合で必要とされているのは、とりまく環境の影響を受けにくい安定的な収入源だ。漁業者を主体にスタートした釧路市の浜プランの中で、特に注力されたのが刺網漁業者によるカレイの価値向上の取組みだった。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2018年2月14日開催)

活魚出荷よりも、鮮度にこだわった方法を

釧路市漁業協同組合 指導部の坂氏によれば、当地の刺網によるカレイ類の漁は、どちらかというと質よりも量を重視する傾向があったそうだ。だが一方で、漁業者の中には資源への心配もあり、「このやり方を続けていてもいいのか」「魚の価値を高めることを優先した方がいいのではないか」という意識も同時に持つ者もいたという。

そこで、資源を守りながら持続的に漁業を営むため、刺網漁業者たちは「鮮度にこだわった出荷方法」により、漁獲物の価値を高め、少ない水揚でも安定した収入源をつくることに挑み始めた。

だが付加価値のつく、活魚出荷はすでに地元消費地向けに実施しており、魚価は頭打ち状態だった。より大消費地に向けて、新たなやり方での試みが求められた。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2018年2月14日開催)

サメガレイを活締めし、新鮮な刺身で

方向性を協議していた頃、刺身用商材として「サメガレイ」に注目が集まっていた。サメのようにザラザラとした堅い皮を持つサメガレイは、調理が大変な一方で、カレイとは思えないほどの脂乗りがあり、生食の美味しさが話題になっていた。

また、時を同じくして近隣の漁協でサケの活締めを開始したことを知ったことをきっかけに、サメガレイの活締め出荷によって、他の水産物との差別化を図ろうという方針が決定した。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2018年2月14日開催)

マーケティング視点からの情報収集と試験出荷

まずは、釧路水産試験場の加工部を講師に招き、えら切り脱血、脊髄締め、神経締めの手法を学び、それぞれの長所・短所を習得することから始められた。

次に市場視察と市場担当者へのヒアリングを実施し、札幌圏での需要や流通に関する情報を収集。その結果、活締めした商品が各地に存在していることがわかり、コンセプトを明確にして差別化することが不可欠であることに気付かされた。また、安定供給が必要なことや、漁獲者がわかるトレーサービリティが求められていることも価値ある情報になることがわかった。

事前の情報収集としての講習会と市場調査を踏まえ、差別化のためのコンセプトを決定。徹底的な鮮度へのこだわりは、次の2点によって実現していくことになった。
①船上締めであること
②「エラ切り脱血」・「脊髄締め」を併用すること

本格出荷に入る前に、まずは市場評価を確認するために札幌に試験出荷を実施。入念な事前活動が功を奏し、鮮度に対する市場からの評価は期待通り高いものだった。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2018年2月14日開催)

鮮度だけではブランドはつくれない

試験出荷の結果は良好であったものの、釧路のサメガレイがブランドとして価値を持つために改めて認識した点もあった。それは、差別化と収益安定化を実現するブランド魚であるためには、「鮮度以外に、消費者へ与える印象がブランド力になる」ということだった。

そこでサメガレイのブランド名を設定することとし、「活締めを極める」という漁業者の意気込みから『極』(きわみ)と命名した。また梱包される発泡スチロールのパッケージも検討し、市場調査の際に他地区では見られなかった黒を基調にしたデザインを採用。さらに、カレイに専用のタグを付けることで、トレーサビリティと品質の証とした。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2018年2月14日開催)

船上から始まる『極』のこだわり

『極』の鮮度へのこだわりは船上から始まる。漁船には6基以上の水槽タンクとブロワ装置(水槽への酸素補給装置)が設置され、冬の極寒による凍結を防ぐためにデッキごとテント囲いが施されている。夏場には冷海水装置を使用して、高温による鮮度落ちを防ぐ。それぞれの設備は、デッキでの作業効率を考慮して配置する徹底ぶりだ。

タンクには沖合のきれいな海水が張られ、サメガレイは漁獲後すぐにこのタンクに入れられる。専用のハサミを使用して「エラ切り」を施し、タンクで30分かけて血を抜いていく。十分に脱血したら、身の締りを増す「延髄切り」を行う。マキリ(漁業用包丁)で延髄を切り、さらに余分な血を抜き去る。エラ付近にはまだ血が残っているため、最後の仕上げに洗い流し、船上での活締めが完了だ。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2018年2月14日開催)

質に対する市場からの高い評価

港に戻ると、梱包・出荷準備に入る。専用の発泡スチロールに窒素氷を入れ、保冷のためグリーンパーチを敷いてからサメガレイが箱に入れられる。魚体には船名ステッカーを付け、エラ付近にタグを取り付ける。サメガレイの肌は固くザラザラしているため、発泡スチロールの削りクズが混入する恐れがあることから、透明フィルム被せて梱包している。

本格出荷後も、こうした丁寧な努力が実り、市場からの評価は上々だ。「血抜きがしっかりされているため、赤身が消え、白身に透明感がある」「特有の臭みがなく、身も上質」「刺身商材としての需要もあることから、消費量の増加が見込まれる」など、『極』の品質の高さが評価されている。

この評価は魚価にも跳ね返り、地元市場に出す通常のものに比べ、約2倍の価格を付けるまでに至っている。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2018年2月14日開催)

自ら工夫し、切磋琢磨する風土が生まれる

所得向上以外の成果もあった。それは、考え方の変化だ。漁業者の中には、質を優先する考え方が根付き始め、自ら良いものを仕上げて出荷しようという意識が生まれてきた。また、自らの作業工程を見直し、効率的な作業をおこなおうという認識も生まれてきたという。

また、市場や仲間との情報交換も活発になった。着荷の状態や出荷先の評価など、都度情報を把握するような環境ができてきた。漁仲間とのやり取りを通して、切磋琢磨するような雰囲気が生まれてきた。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2018年2月14日開催)

意識の変化は、次への活力になる

今後を考えれば、もちろん課題はある。『極』の出荷に取組むのは4隻の船だけであり、時化(しけ)など漁模様にもより、安定供給への難しさを乗り越えなければならない。また、船上の活締め作業は、魚の価値を高める一方で、作業時間と手間の負担が大きい。船長自らが行うことも多く、乗組員の安定的な確保も必要だ。

だが釧路市漁業協同組合は、全国に向けた釧路産ブランドの確立を目指して、次に向けた検討を始めている。サメガレイ以外で収入源となりえる魚種や、未利用資源の活用を模索している。また、人材不足解消のための協業化や、活締め技術の若手への継承も検討中だ。

『極』によってもたらされた意識変化が、次の動きの活力となり、新たなブランド魚の誕生へとつながり始めている。

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