浜プランの取組地区数

5 5 4 地区
※2023年3月末時点

苫小牧漁業協同組合

苫小牧市地域水産業再生委員会

「幻の魚」と「苫小牧市の貝」
マツカワカレイとホッキガイのリバイバル!

さまざまな魚価向上の取組に加え、ホッキガイの資源確保やマツカワカレイの新たな輸送技術開発等の取組を通じて、生産量の増加と魚価向上を両立させた北海道・苫小牧市地域水産業再生委員会。
今回は、2018年度浜の活力再生プラン優良事例表彰にて水産庁長官賞を受賞した、当地区の取組をご紹介!

目次

北海道の海の表玄関、苫小牧市

苫小牧周辺の浜は「樽前浜」と呼ばれ、江戸時代末から明治時代にかけてイワシ地引き網漁と金肥の魚粕(〆粕)づくりでにぎわった。しかし、明治時代末期になって漁は衰えをみせ、漁業者からは沖合漁を望む声が高まり、それには大型船と港が必要であった。そして1924年の初案計画以来40年にわたり修築運動などを続けた多くの人々の努力により、苫小牧港は開港するに至った。

長年の夢を地道な努力で叶えた苫小牧市民。その資質は漁業においても活かされている。

Wikipediaより(苫小牧西港)

絶滅したと言われる程になった、「幻の魚」

北海道ではヒラメを凌ぐとも言われる白身の高級魚「マツカワカレイ」。1960年頃までは北海道各地で多く漁獲されていたものの、絶滅したと言われるほど資源量が減少し、「幻の魚」と言われていた。このマツカワカレイの資源増大のため、2006年から北海道えりも以西海域で年間100万尾の種苗放流を行ったところ、2008年以降から漁獲量が増加し、種苗放流以前の約10倍以上となる年間100トン前後の水揚げになるなど、奇跡的な復活を遂げた。

しかし、「幻の魚」となってしまったことで、その認知度は低下してしまった。そのため、苫小牧漁業協同組合では、その認知度向上(復活)と販路開拓が課題となった。

マツカワカレイ

長時間輸送技術の確立と商圏の拡大

マツカワカレイの魚体活力の強さや生食の美味しさ、苫小牧市の地域の特性である空港近接の地の利等を最大限に生かすため、苫小牧漁業協同組合は、苫小牧工業高等専門学校、寒地港湾研究技術センター、中央大学と連携し、活輸送方法の改善に向けた試験研究に取り組んだ。
高濃度酸素を注入した容器を使って空輸し、マツカワカレイの生存率を95%以上まで上げることに成功。当初20時間が限界だった活輸送時間を72時間まで伸ばせるようになり、道外や海外などへの商圏の拡大も可能になった。また、活魚販売量が増加するとともに、空輸と陸送の併用も可能となり、輸送コストの削減も実現した。

マツカワカレイ出荷の様子、マツカワカレイの販売状況

プロジェクトチームを結成し、価格対策に注力

マツカワカレイの認知度低下に伴い、魚価が伸び悩み、放流に必要な種苗生産経費は漁獲金額でカバーすることが困難な状況となっていた。そこで、周辺地域で構成される「えりも以西栽培漁業振興推進協議会」は、価格対策に特化した下部組織として、15漁協・関係行政・系統の若手職員や現場担当者て構成された「マツカワ魚価対策プロジェクトチーム」を設立。苫小牧漁業協同組合はそのリーダーとして、広域的に行政・近隣漁協と連携したPR活動をリードした。平成27年度から、そのスケールメリットを生かして定期的にマツカワカレイのPRイベントを実施し、マツカワカレイの認知度を取組当初より17%アップさせることに成功した。

これらの取組の結果、マツカワカレイの漁獲量は14t(2013年度)⇒16t(2017年度)と増加しながらも、魚価は1,188円/㎏(2013年度)⇒1,373円/㎏(2017年度)と向上している。えりも以西海域一帯においても同様の効果が発現している。

取組結果

基幹漁業を持続的なものにするために

ホッキガイは、組合員の約8割が着業する主要魚種だ。また、苫小牧市はホッキガイの生産量日本一を誇っており、漁業者にとっても地元自治体にとってもその資源の安定は不可欠である。そのため、従来から漁場の輪番制、採捕サイズの制限、漁獲ノルマの設定等数々の資源管理に取り組んできたが、推定資源量は減少傾向となっていたことから、新たな資源管理の必要性が出てきた。

そこで、2014年度から漁業者自らがホッキガイの外敵である「カシパン」の駆除や漁場耕転に取り組み、食害の防止や生息場所の確保に努めた。その結果、推定資源量は19,000t(2014年度)⇒28,000t(2017年度)と大幅に増加し、より安定的な漁業としての基盤を確立した。好不漁の影響なく毎年一定の収入を見込めることから、若年層の漁業就業者も取組当初より10人増加(2018年度)した。

カシパン

出荷作業も漁業者自らが行う。

ホッキガイは道内の他地域で多く獲れる冬季には、価格が下落する傾向があった。従来は苫小牧漁業協同組合が主体となり、道外市場への出荷を行っていたものの、漁協職員のみでは対応できる量に限界を感じていた。
そこで、漁協職員のみでなく、漁業者自らがホッキガイの梱包作業を実施。ニーズに合わせ、発送先毎に出荷サイズを統一するなどの出荷体制を構築したことで、大口出荷への対応が可能になった。また、女性部や苫小牧漁業協同組合がホッキガイを食す文化の無かった地域へPR活動を実施したことにより、関西圏にまで販路を拡大することができた。

その取組により、ホッキガイの単価は432円/㎏(2014年度)⇒522円(2017年度)と90円/㎏の向上を実現することができた。

ホッキガイの採捕サイズ計測の様子、PR活動

取組効果と今後の取組

これらの取組により、組合員一人あたりの漁業総所得は4,108千円(2014年度)⇒4,817千円(2017年度)に増加した。漁業者自らの行動力が生んだ結果だ。

苫小牧漁業協同組合 長山専務は「新しい取組も含め、これまですべて手作りでやってきたが、これで満足はしていない。これからもプランの取組の実践を通じて地域的な特徴をつくり出し、浜を発展させていきたい」と語る。目下、苫小牧港では屋根付き岸壁の整備が進められており、これを活用した輸出の取組を検討しているという。

当地区の取組は、困難な状況に陥ってもその人々の地道で着実な行動力により、再生させることができることを示している。それぞれの主体者意識が輪を広げ、よりスケールの大きな取組への発展に寄与している。

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