浜プランの取組地区数

5 5 4 地区
※2023年3月末時点

京都府漁業協同組合

京都府水産業再生委員会・京都府広域水産業再生委員会

アカガレイの本当の美味さを!
「漁師の味」と「協力」がもたらした、新たな魚の価値!

多くの漁業者が目指す魚価の向上。「付加価値をつける」ことが糸口であることは想像できるものの、具体的に何を進めればよいかは不明確であることがほとんどだ。京都府漁業協同組合は、魚の価値の見直し、品質を高く保持するための工夫、関係者との協同連携、積極的なPRを実施することによって、そのきっかけを作り出した。

目次

観光だけでなく、漁業も盛んな地、京都府

年間1,400万人を超える観光客が訪れ、日本を代表する観光地、京都府。神社、仏閣など歴史的建造物が並ぶイメージが強いこの地だが、日本海側に面する漁場では、京都府漁業協同組合の約10の支所が拠点を構えている。丹後松島海岸や舞鶴湾など、レジャースポットとしても、漁場としても活気があふれる地域だ。

京都府が有する日本海漁場では、舞鶴市、宮津市、京丹後市、伊根町の3市1町で漁業が営まれており、海岸の総キロは315kmに渡り、リアス式海岸も多んでいることが特徴だ。京都府が取組んだ「浜の活力再生プラン(浜プラン)」は、この北部地域で取組まれた。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

地域全体で取組んだ、京都府の浜プラン

京都府の漁業は、年間12,000トンの漁獲量を誇る。その中心は沿岸漁業で、漁獲量の7割が大型定置網漁業によるものだ。全国的に見ても、定置網漁業が漁獲量の7割を超える地域はなく、京都府では16経営体・32カ統が網を構える基幹漁業として、大型定置網漁業は重要な役割を担っている。

こうした背景から、京都府の浜プランは各地単独で策定するのではなく、「広域浜プラン」として京都府漁連を中心にした漁業地域全体で取組むことが第一に考えられた。また、浜プランで掲げられる10%の所得向上を達成するため、収入向上策としては、主要な3漁法ごと(定置網、底曳網、釣・延縄)のプランを策定した。

各浜プランで掲げた目標は、5年間で「魚の取扱単価を10%向上させる」ことだ。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

低迷が続いていた魚、アカガレイ

取扱単価を10%向上させるために目を付けたのが、以外にも主要漁業である定置網漁業ではなく、底曳網漁業で獲られるアカガレイだった。

京都府の底曳網漁業は、舞鶴で5隻、間人(たいざ)で5隻、浅茂川(あさもがわ)で1隻の計11隻、14~20トンの漁船が主体となって操業している。年間、約570トンを漁獲する京都の底曳網漁業では、ズワイガニ、ハタハタ、ニギスをはじめに、100種近くの魚種が水揚げされるが、その約4割を占める重要な魚が、アカガレイをはじめとするカレイ類だ。

京都府のアカガレイは、資源評価的にも安定した魚種であり、近年120トン前後の漁獲量を維持してきた。だが一方、取引単価は平成16年の600円ほどをピークに低迷が続き、平成24年には約350円ほどにまで落ち込んだ。

浜プランの目標である漁業所得の向上を達成するためには、大幅に低下するアカガレイの魚価を向上させることが、避けては通れない課題となっていた。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

漁業者だけが知る、アカガレイの美味さを世の中に

そもそもアカガレイは、煮付けや焼き物、揚げ物など、調理用食材としての需要が多い魚だ。だが、産卵後のアカガレイは「味が落ちる」というイメージもあってか、需要が低く、価格が大きく下落することが漁業者の悩みの種になっていた。

しかしこれに反して、漁業者の間では刺身で食すことも多く、その味も美味であるとのことであった。その点に目を付け、まず取り組んだのは、漁業者の中だけで知られる生刺身のアカガレイの美味しさを、地元の流通関係者や仲卸業者たちにも知ってもらい、新たな取引につなげようという試みだった。

業界関係者40名を集めた試食会を開催し、アカガレイの刺身やしゃぶしゃぶを味わってもらい、意見交換会も同時に実施。その結果、終了後のアンケートでは、回答者32名の内、30名が「活〆アカガレイは刺身商品として魅力がある」と回答。また18名から「商品として扱いたい・価格によっては扱いたい」との評価を得ることができ、生食商品としての確証と自信を得られるきっかけになった。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

魚の価値を高めるための、技術の徹底

生食商品としての手応えを確かなものにし、さらなる周知活動に取り組みはじめる。地元を超え、全国から魚が集まる京都市の中央卸市場の関係者に対しても、試食会・説明会を実施、アカガレイの刺身や握りを振る舞った。当日は、底曳網漁業者も出席し、生のアカガレイの美味さを訴えた。

もちろん、周知活動だけがうまくいっても、肝心な味が維持できなければ意味がない。生食で味のいいアカガレイを提供し続けるためには、〆技術の継承が欠かせないことから、アカガレイを扱う底曳網漁業者に対して、先駆者(ウエカツ水産 上田勝彦氏)による活〆の講習会・勉強会を積極的に実施し、鮮度向上・維持に向けた技術習得を図った。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

運用チェックと役割整理で、協同体制を構築

しかし、実際の運用段階に入ると、漁業者自身で活〆・神経〆の処理を施すのは作業負荷が大きいことが判明した。そのため、漁業者はアカガレイを漁獲し、船内水槽で活かして帰港・水揚げすることまでとし、活〆・神経〆の処理は漁協職員が施す形に役割を整理した。

なお、11隻の全ての底曳網漁船に設置された保冷水槽は、「浜の活力再生 広域プラン」の実証調査事業を活用することで習得に至った。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

アカガレイの美味さを伝播するためのPR

どんなに美味い魚であっても、それが世の中で知られていなければ、販売にはつながらない。京都府は、「活〆 京のアカガレイ」を携えて、都市圏を中心に積極的にPR活動に取り組んだ。そのターゲットは、業界関係者や一般消費者など、全方位的に行われたことが特徴だ。

中でも、「京の食材紹介セミナー」は、都内の飲食店業者を対象に、京野菜を中心とした京都の農林水産物を紹介するセミナーであり、食材の一つとしてアカガレイをアピールする機会となった。また、JF全漁連が開催する「PRIDE FISHフェア」にも参加し、一般の消費者に対してもアカガレイの美味さを知ってもらうことに力を入れたことも欠かせない取組の一つだ。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

量販店イベントで消費者をつかむ

特に一般の消費者へのアピールは、欠かすことができないPR活動の一つであった。そこで京都府は、大手流通量販店イオンの京滋・大阪店を中心に、従業員向け・消費者向けPRイベントを積極的に実施。平成28年4月から翌年3月までに計8回、日数にして10日間が開催された。量販店からの評価は、味・認知度ともに良いもので、現在では地元スーパー7店舗にまで拡大することに成功している。

特徴的な点は、これらイベントのいくつかが、京都女子大の学生とのコラボによって開催された点だ。意欲と活気があり、また広い口コミのネットワークを持つ学生を活用することにより、イベント効果のさらなる増大につながったことが考えらえる。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

戦略の要は、物の流れに沿った取組

「京のアカガレイ」の浜プランをまとめてみれば、

– 漁師しか知らない美味さの発見

– 市場関係者・卸業者へのPR

– 鮮度向上のための技術習得

– 漁業者と漁協の協力体制の整備

– 積極的なPR活動

と、漁獲から出荷、そして消費者の口に運ばれるまで、物流を追うようにケアが施されたプランであることがわかる。また、これらを可能にした要因が、漁業者と漁協、そして市や府といった行政が、うまく連携を進めたことに他ならない。

まだ取組は始まったばかりであるが、平成27~29年の3年間では、一般の鮮魚アカガレイと「活〆 京のアカガレイ」の魚価平均を比較すると、18%魚価が向上したことが明らかになった。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

課題に向けた次の一手

京都府漁業協同組合の濱中氏は、こうした活動を振り返り、まだ大きく2つ課題が残されていると言う。

その一つは、数の問題だ。活魚の取扱数はまだまだ少なく、伴って飛躍的には魚価が上がりにくい状況にあるのだと言う。そして2つ目の課題が、標準化の問題で、各漁船で取扱方法が統一されておらず、品質がまちまちになる懸念がある。

これらの課題を解決するため、漁協は手は打ち始めている。現在、府試験研究機関による技術開発試験を予定しており、具体的には、船上や市場、そして陸上輸送時でも鮮度高く保存するための保存水温や保存期間、取扱方法などに関する実験を行い、問題の解消に取り組み始めたところだ。

また、価格の維持や認知度の向上など、マーケティング的視点からの取組を進めるため、漁業者と漁協、そして府・市町行政とが強力に連携できるような環境整備が始まっている。

(執筆日:2017年8月25日)

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