浜プランの取組地区数

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※2024年3月末時点

小泊漁業協同組合

小泊地域水産業再生委員会

「三方よし」の浜プラン!
ご当地グルメで、地域を再生!

高齢化や過疎化に喘ぐ漁村を復活させるために開発された「ご当地グルメ」。食材に妥協が許されないことは確かだが、地域を再生させるために本当に必要なことは、「意識改革」だ。関係者全員が納得し、一致団結して取り組むことで地域が変わり始める。強い思いで成し遂げた、漁業者・漁協・地域の「三方よし」の浜プランをご紹介!

目次

漁業と共に歩んできた、青森県 小泊

津軽半島の北端に位置する、青森県 小泊(こどまり)地区。日本海に突き出るようにある権現崎(ごんげんざき)は、青森の景勝地としても知られ、多くの観光客が訪れる津軽半島を代表する観光地の一つになっている。”小泊”は、アイヌ語で「小さな港」を意味する”ポン・トマリ”に由来すると言われていて、日本海に面するこの地は、古くから漁業と共に歴史を歩んできた。

この地区で、漁業や農業、観光を基幹産業として発展してきたのが、中泊(なかどまり)町だ。平成17年に旧中里町と小泊村との合併を経て誕生し、現在、人口1万1千人ほどが住んでいる。豊富な環境資源に恵まれているようにみえる一方、過疎化と高齢化が進む典型的な地区とも言われるのが、この小泊地区 中泊町だ。

出典:青森県観光情報サイト アプティネット・浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年8月21日開催)

現状を打破するための「浜プラン」

小泊地区 中泊町にある小泊漁業協同組合・下前漁業協同組合では、スルメイカ漁やクロマグロ延縄漁、刺網漁、定置網漁など、多種多様な漁業が行われている。この地区の基幹産業である漁業を支えるのが、小泊地区の448人(平成25年末時点)の漁師たちだ。

しかし町の高齢化とともに、漁業者の7割は60歳以上の漁師によって占められているのが小泊地区の漁業だ。豊富な経験、熟練した技術、伝承されてきた知恵を持つ漁師でしかできない漁が行われる一方、次の担い手という点では深刻な状況にある。また、近年の漁船燃料や漁業資材の高騰、魚価の低下などが、漁業経営や漁業所得に大きな影響を及ぼしている。

小泊地区の「浜の活力再生プラン(浜プラン)」は、基幹産業である漁業の経営安定化と、漁業者の高齢化・減少を打破することに目標が据えられた。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年8月21日開催)

「ご当地グルメ開発」で、地域を再生

漁業経営の安定化、高齢漁業者対策、この2つを掲げた小泊地区の浜プランに具体性を持たせたきっかけは、平成28年3月の北海道新幹線の開業だった。新幹線の開通により、今まで以上の人口流入が見込めることが期待され、「中泊町でしか食べられない、新しいグルメ」の開発が、町を救う起爆剤になるのではないかと考えられた。

また、地域をPRする切り口としても、「町」よりも「食材」の方が消費者が受け入れやすく、全国的にPRがしやすい。さらに、その食材の価値が上がれば、市場価格にも反映されるようになる。こうした理由から、小泊地区の浜プランは「新・ご当地グルメの開発」をテーマに動き出した。

なお、この時、ちょうど旧中里町と小泊村との合併10周年であり、開発メニューは両地区の食材を使ったものとして企画された。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年8月21日開催)

県内一のメバルで、観光客をおもてなし

新開発のメニューは、地方から訪れる観光客への「おもてなし膳」として企画され、ご飯から汁物まで全て、中泊産の地場食材を使用することにこだわった。そのメイン食材に据えたのが、高級魚として知られるメバルだ。

小泊地区の漁業では、スルメイカ漁とクロマグロ延縄漁が主流であるものの、近年の不漁や資源管理の視点から、漁業所得への貢献度は低い傾向があった。そこで目を付けたのが、固定式刺網漁と一本釣り漁で有名なメバルだった。

青森県の統計によれば、全国で700~1,200トン/年ほど漁獲されるメバルの内、青森県のメバル漁獲量は全体37%を占め、全国一を誇る。その青森県のメバルの中で、最も多い漁獲量を誇るのが中泊町で、300~150トン/年を獲る一大産地だ。(平成22~25年平均、出典:「中泊メバルの刺身と煮付け膳」公式サイト)

中泊町のメバル漁は、漁業期間・時間・漁具が厳しく制限される「固定式刺網漁」に37隻、「一本釣り漁」に39隻の漁船が取組み、青森県内でメバル水揚げ一位を誇っており、食材選定に自信をもたらす理由となった。

「地域を救う」新ご当地グルメ、「メバル膳」

「津軽海峡メバル」(ウスメバル)を使用したおもてなし膳、「中泊メバルの刺身と煮付け膳(通称:メバル膳)」のメニューは、「お頭付きメバルの刺身姿盛り」、「メバルの熱々煮付け」をメインに、取り皿や箸置きもメバルの形を模したものにする徹底ぶりだ。

「メバル膳」は、平成26年7月3日から地域の指定された飲食店で提供が開始され、平成29年8月までで45,000食を提供する大ヒット商品となった。その経済波及効果は2億2千万円と推計され、地域全体に大きな効果をもたらすことになった。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年8月21日開催)

「地域を伝える」新ご当地グルメ、「メバチン!」

大きな反響が、さらなる新メニューの開発を後押しすることになる。

「メバル膳」の中でも人気があるのが「メバルの熱々煮付け」で、これをお土産にしてほしいという多くの声が寄せられた。約1年の試行錯誤を経て、電子レンジで温めるだけでメバルの煮付けが出来上がる、「中泊メバルでチン!(愛称:メバチン!)」を開発し、平成29年7月より販売を開始した。「メバチン!」は浜プランの取組としては掲げられていなかったものの、現状を打開するさらなる付加価値向上策として、関係者の熱い思いが実らせたものだ。

観光客をターゲットに始まった浜プランは、「メバル膳」を通じてその地を訪れる観光客にPRすることに加え、「メバチン!」の開発によって、その家族や友人など、地域の枠を飛び越えた広がりを見せ始めている。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年8月21日開催)

「無駄なこと」、漁師からの厳しい声

新ご当地グルメの開発は、一筋縄に進んできたわけではない。小泊地域水産業再生委員会 会長 成田直人氏によれば、「メバル膳」の成功がまだ見えていなかった開発段階には、漁業者から「魚価が上がっているわけでもないのに、わざわざ時間とお金をかけてやるのは無駄なことだ」といった厳しい声が少なからずあったという。

しかし成田氏は、不満を言うだけでは何の解決にならないと丁寧に説いて回り、「出来ることから始めよう」を合言葉に、漁業者の意識改革に取り組んできた。理解を得ながら取組を進め、「メバル膳」が県内外で支持を集めるようになると、1,300円/kg~2,100円/kgほどだったメバルの魚価は、1,500円/kg~2,300円/kgと、最大で1.4倍に上昇し、漁業所得の向上が現実のものとなるにつれ、漁業者からの支持も得られるようになったという。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年8月21日開催)

知名度が向上、魚価が安定

成田氏は、魚価向上だけでなく2つの感触を得られていると語る。

一つは、「中泊町」の知名度の向上で、それまで県内でも知られていないと思われていた町の名前が、「メバル膳」の積極的なPRを実施することにより、「メバルと言えば、中泊町」という認知が広がってきたように感じられるという。

またもう一つは、メバルに対するイメージの変化だ。そもそもメバルという魚自体の知名度が低かった上、刺身で食べられることも知られていない、大都市圏でのみ消費される高級魚というイメージがメバルには強いと思われる。だが、「メバル膳」の名とその美味さが県内外で知られるようになると、一般の家庭用にも食材として購入されるケースが増えてきたそうだ。

こうした知名度の高まりとイメージの変化は、需要を作り出し、メバルの魚価を安定させることにつながりはじめている。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年8月21日開催)

中泊を盛り上げる、若い力「中泊活ハマクラブ」

こうした取組は、小泊地域水産業再生委員会の力だけで成し遂げられたものではない。地域活性化を目指して、若手漁師と漁協職員、役場職員43名で構成された「中泊活ハマクラブ」は、地元の漁師や漁業者を元気づけるためと、地域を盛り上げるために様々な活動を行ってきた。

例えば、ブルーツーリズムの一環である「津軽海峡メバル 網外し体験ツアー」は、その代表的な取組だ。親子を対象にしたこの漁業体験ツアーは、市場で水揚げされたばかりの魚介類を紹介、-10℃の製氷庫を見学してから、夜20時、漁から帰ってきた船のメバルの網外しを体験する。そして、ツアーの締めは、集魚灯の下でいただくメバル料理だ。こうした非日常的な空間を体験した子供たちの喜ぶ顔がとても印象的だという。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年8月21日開催)

浜に活力を与えるのは、「意識の変化」

中泊活ハマクラブでは、その他にも一般消費者向けに様々なイベントを開催しているが、これらの活動を通して意識の面で大きな変化が起きている。

自分たちで企画・立案、そして参加することで、地域に愛着が湧き、次はどうすればいいかという前向きな発想が生まれ、「やらされた感」ではなく「やった感」が得られるようになってきた。 また、特に20代の会員にとっては、日々、漁に勤しむだけだったのが、活ハマクラブの活動を通じて、地域を何とかしたいという気持ちが湧いてきているという。

成田氏は、これからの漁業の中核を担う存在として、若い漁業者のこうした意識を大切にし、育成していくことが浜の活性化に繋がることだと考えている。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年8月21日開催)

漁業者・漁協・地域、「三方よし」が未来を創る

小泊地区 中泊町で取り組まれた浜プランのポイントは、もちろん「メバル膳」の新商品開発を置いて語ることはできない。だが、それを着実に実行できたのは、目標を達成するために、関係者全員の意識を変える努力が行われたからに他ならない。

成田氏は、「漁業者よし、漁協よし、地域よし」の「三方よし」が浸透して協力体制を作り出せなければ、取組は成し遂げられなかったと述べる。こうした意思があったからこそ、取組当初にあった漁業者の反発にも折れず、丁寧に話をし、意識改革に臨むことができた。

過疎化・高齢化が深刻視される小泊地区で行われてきた意識改革は、今後も続いていく。中泊活ハマクラブを中心にした若い漁業者のアイデアと、純粋な思いから生まれる「漁村 小泊の復活」への気持ちが、確実に地域を再生させようとしている。

(執筆:2017年9月11日 )

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