浜プランの取組地区数

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大阪・泉州広域水産業再生委員会

「全体効率」の都市圏漁業!
「施設の集約」と「入札制度」で地域活性!

どのような漁業でも求められる効率性。漁の仕方、水揚げ方法、出荷体制など、改善するポイントは多く考えられるが、大阪・泉州地区で取組まれた広域浜プランは、地域全体で取組んだ徹底した「効率追求プラン」と言える。拠点を集約するための施設整備、魚価を向上させるための入札制度の導入など、都市圏漁業ならではの発想から生まれた取組を紹介!

目次

都市と漁業が両立する地区、大阪

人口880万人を超える日本三大都市の一つ、大阪。都市圏という印象が強いこの地と漁業が結び付くイメージは一般的には少ないのかもしれない。だが実際には、大阪湾の沿岸には24もの漁業協同組合が存在し、活発な漁業活動が展開されている。まき網漁業を始め、船びき網や底びき網漁業を中心に、マイワシ、カチクチイワシ、シラス、イカナゴ、ハモ、タコなど豊富な魚種が水揚げされる、都市と漁業が両立する地区だ。

この地区には、「浜の活力再生 広域プラン(広域浜プラン)」を進めるため2つの地域再生委員会が存在する。一つは底びき網漁業を主とする大阪広域水産業再生委員会と、もう一つが今回紹介する、まき網漁業や船びき網漁業を主とする大阪・泉州広域水産業再生委員会(以下、大阪・泉州再生委員会)だ。24の組合の内、10の組合によって組織されている。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

漁法ごとに考えられた、広域浜プラン

大阪湾の漁獲量は、年間15,000~20,000トンで推移しているが、この80~90%がまき網漁業・船びき網漁業によるもので、そのほとんどが大阪・泉州再生委員会に所属する漁協によって占められ、漁獲金額でも、70~80%を占めている。

「浜の活力再生プラン(浜プラン)」が目標として掲げる漁業所得の10%向上を達成するためには、魚価を向上させることが方法の一つだ。大阪・泉州再生委員会の漁業は、大きく3つの漁法と魚種に分けることができ、それぞれへの工夫が必要だと考えられた。

①まき網漁業(マイワシ・カタクチイワシ・ボラなど)

②船びき網漁業(イカナゴ・シラスなど)

③底びき網・刺網・流網漁業等(サワラ・スズキなど)

出典:まき網漁業で水揚げされたマイワシ:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

取引単価の高い海外への出荷(まき網漁業)

魚価向上と言っても、単に価格を上げるだけでは売上にはつながらない。そこで、漁法ごとに具体的なKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)が定められた。

①まき網漁業 まき網で獲られる魚のおよそ90%はエサ用として出荷される。例えばカタクチイワシは、国内では30~40円ほどで取引されるが、海外に出ると70円ほどになり、魚価は2倍にもなることが分かっていた。

また、まき網で水揚げされる魚種の一つにボラがある。今でこそ大阪の海は環境保全が進み、優良な漁場が確保されているが、過去、日本最大の重工業地域として栄えた頃には、少なからず海の汚染が問題視されていた。

そのころを境目に、大阪ではボラの食習慣が失われている。だが近年、中国で食用素材としてボラの人気が出始めており、高い値段で取引されていることがわかってきた。 これらを踏まえ、まき網漁業の広域浜プランでは、高い値段で取引される海外への輸出を促進することに取組むこととした。

大阪まき網漁船: 浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

相対から入札販売へ(船びき網漁業)・都市部への出荷(底びき網・刺網漁業)

②船びき網漁業

イカナゴやシラスを主要魚種とする船びき網漁業では、平成26年頃まで、それぞれの港で水揚げされた魚を相対で取引することが主流になっていた。そこで、入札制度を導入することによって、単価を向上させることが目指された。

③底びき網・刺網・流網漁業等

これらの漁で水揚げされる魚種については、東京方面への出荷が検討された。大阪・泉州地区は、最北にある漁協でも関西国際空港から車で30分ほどの好アクセスを誇る地域だ。この流通面でのメリットを活かし、鮮度の良い商品を都心方面へ出荷することで、高い値段での取引が期待された。

船曳漁業で獲られる生シラス

求められたのは、全てを集約する施設

まき網漁業で目指す「海外出荷」、また、船びき網漁業に求められる「入札による取引」、そして底びき網・刺網漁業等が狙う「都心出荷」。これらにはいずれも施設整備が必要であることは言うまでもない。

だが、都市圏である大阪では全てを一か所に集約するための大規模な土地の確保は難しい状況にある。また、過去の阪神高速道路等の道路工事によって、巾着網漁業の船団が2つに分断せざるを得ない経緯があった。ひとつは北部の5漁協の拠点となる岸和田漁港、もうひとつは南部の4漁協が集まる阪南港だ。

出典:Google map

岸和田と阪南、2つの拠点への機能集約

こうした背景を踏まえ、大阪・泉州再生委員会は、次のような整理で施設整備を進めることとした。

●岸和田漁港:

関西国際空港の近く、臨海地区にある岸和田港は、海外・都心への輸出の拠点とした。先の①まき網漁業、③底びき網・刺網漁業の拠点という位置づけだ。そのための整備内容としては、高い鮮度を保って出荷するための「急速冷凍庫」と「冷凍保管庫」だ。

●阪南港:

阪南港は、入札会場としての整備を進めた。先の②船びき網漁業の全ての漁船が集まる拠点とし、施設としては、「急速冷凍庫」と「冷凍保管庫」はすでに港内に備わっていたものの、入札に欠かせない「荷捌施設」および海外輸出を考えた場合の「冷凍保管庫」の拡張整備を行った。 これらに係る費用は、広域浜プランとして水産庁の承認を受け、その半分は「水産業競争力強化緊急施設整備事業」で賄うこととし、残りの半額を大阪府鰮巾着網漁業協同組合が負担することとした。

阪南の荷捌き施設と冷凍施設・船曳漁業で獲られる生シラス: 浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

入札での課題、漁業者と仲買人との相反関係

イカナゴやシラスを中心とする船びき網漁業の浜プランが目指した、相対から入札への移行だが、効率が期待できる取組であるものの、実際となると漁業者や仲買人からの反発は避けられなかった。なぜなら、相対と入札のそれぞれで、漁業者と仲買人とではメリットとデメリットが相反する関係にあるからだ。

たとえば、相対の場合は基本的に全数販売が前提となる。漁業者にとってみれば全てを買い取ってもらえる喜ばしい話だが、仲買人にとってみれば不要なものまで買い取らなければならない。一方、これが入札への移行となると、仲買人は好きな数だけを入札できようになるが、逆に漁業者には売れ残りのリスクが発生してしまう。

同様のことが取引価格にも起きる。相対の場合は、仲買人は自分で値段を決められるが、漁業者からすると安く買われる可能性がある。一方、入札では、漁業者は値段が高く付くことが期待できるが、仲買人にとってはそれはリスクに他ならない。

出典:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

さらなる課題、「競合地区」と「資源量」

だが、こうした漁業者と仲買人との相反関係を踏まえても、入札は今の大阪・泉州地区には必要な取組であった。その背景にあったのは、「隣県との競争関係」と「資源管理」の2つの視点だ。

まず、大阪湾の魚は、すでに入札制度を導入していた隣接する兵庫県の神戸地区および淡路地区と比べると、2~3割も安い水準にあった。例えば、当時の過去5年間のシラスの平均単価は、シラスは兵庫県2地区の平均の400~423円/kgに対して、相対取引であった大阪湾の価格は286円/kgであった。イカナゴも481~526円/kgに対して、413円/kg程度だった。

さらに、取引価格の安さをカバーするために行われたのが、過剰漁獲だ。より多くの量の魚を獲ることによって売上を保つことが続けられたが、次第に魚の資源量が減る事態となってしまい、売り方の改善が急務な状況に追い込まれる。

隣県競合地区と同等の値段で取引をするため、また資源量を回復・維持するため、大阪・泉州再生委員会は入札制度の導入に踏み切った。

整備前の荷捌き施設:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

売り方の改善が、魚価を変える

平成26年、大阪鰮巾着網漁業協同組合が中心になり、入札制度を導入した。開始当初の参加は、大阪の全68統ある船びき網漁業のうち、26統の参加に留まった。だが、値段が付き始めたという情報が広がり、平成27年には45統、平成28年には68統すべてが参加するに至った。

肝心な取引単価については、活水器による浄化(ディレカ水)などの鮮度保持に気を配った効果もあり、平成26~28年の3年間の平均で、イカナゴは相対販売時の413円/kgから536円/kg(※平成28年除く)に、シラスは286円/kgから419円/kgにまでと、1.3~1.5倍に価格が向上、兵庫県の取引価格に追いつくことができた。特にイカナゴについては、平成28~29年に不漁となったものの、「欲しい人は欲しい」という嗜好品ならでは需要が拍車をかけ、2,300円/kgもの値段を付けることになった。

さらに、資源量についても効果を発揮する。入札価格が下がり商品に値段が付かないことがわかると、一斉に網上げし、不必要な漁獲を行わないこととしたからだ。

整備後の荷捌き施設・急速冷凍庫・冷凍保管庫:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

さらなる工夫①「共同運搬船」

大阪・泉州再生員会の取組は、入札制度の導入だけに留まらない。

浜プランで掲げられる所得向上を達成するためには、収入の向上に加え、コストの削減も重要な要素だ。そこで目を付けたのが、各船びき網漁業の船団に所属する運搬船だ。各船の運搬船の積載量は、シラスの場合、1隻あたり100カゴ(1カゴ:約25kg)程度に留まる上、各運搬船が頻繁に行き来することにより、港内が混雑するだけではなく、地区全体として使用燃料にも大きな無駄が生じた。

そこで「漁船リース事業」を活用し、共同運搬船を建造することにした。19トンクラスで建造された共同運搬船は、500カゴ以上運べるようにし、海上で各漁船からカゴを回収し、まとめて水揚げすることで効率性を上げるとともに、省エネ効果も発揮した。

概略図(全漁連 浜再生推進部 作成)・共同運搬船が運ぶシラス:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

さらなる工夫②「入札情報の配信」

さらに行った取組が、入札情報の配信と共有に関する工夫だ。

それまでの入札は、全て手書きで行われていた。これを電子モニターに表示するようにし、どの漁師の商品がどれだけ値段が付いているかが、一目でわかるようになった。

それだけではない。この入札情報は、沖で操業中の漁師のスマートフォンにLINEで送信される。漁師は「どこの漁場のシラスに値段が付いているか。」「どこでシラスが多く獲られているか」が、即時にわかるようになり、それを元に漁場を変えることができるようになる。

効率的、かつ確実な操業を実現するために情報を配信していることが、何よりのポイントだ。

入札情報を表示する電子モニター:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

さらなる工夫③「直販ルートの効率化」

一般の消費者への取組も怠っていない。岸和田漁港・阪南港に水揚げされる魚の一部は、漁師それぞれが販売するのではなく、集約した上で消費者に提供される。

その直売販路の一つが、毎週日曜日に開催している「地蔵浜みなとマルシェ」だ。このマルシェは平成27年夏から開始し、毎回大勢の利用者が訪れるほどの盛り上がりをみせている。また、平成27年春にオープンした直営料理店「泉州海鮮きんちゃく家」では、これまで大阪ではなじみが薄かった「生シラス丼」が人気メニューだ。いまでは、泉州名物として知られている。

消費者への直接ルートだけでなく、飲食店への販路も拡大させている。同再生委員会のメンバーに加わっている日本海洋資源開発㈱の協力により、大手飲食店や回転すし店などへ、大阪・泉州のシラスやイワシ、サワラなどを直送することが可能になった。関西国際空港へのアクセスの良さを武器に、日の出とともに水揚げされた魚は、朝8時までに関西国際空港に陸送され、11時の航空便で東京の店舗に到着、獲ったその日に高鮮度の魚が消費者の口へと運ばれるルートが確立している。

地蔵浜マルシェ・生シラス丼:浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年7月18日開催)

地域全体で取組む価値

大阪・泉州広域水産業再生委員会の浜プランのポイントは、「全体効率」で表されるのではないだろうか。例えば入札制度の導入を検討する際、各関係者の相反する利害を乗り越えられたのは、「地区全体としての魚価の向上・効率の向上」に納得性があったからだ。一人一人が儲かることではなく、地域全体で活性化しようという意識があるからこその結果だと考えられる。 さらに特筆すべきは、強力なリーダーシップを持つ先導者の存在だ。これらの取組を先導し、入札制度の導入を率先して行った大阪府鰮巾着網漁業協同組合組合長 岡 修氏(現大阪府漁連会長)をはじめとする、大阪・泉州広域水産業再生委員会再生委員会のメンバーたちの、地域を盛り上げたいという気持ちと、周囲から熱い信頼を得るリーダーの存在が、この広域プランの推進を堅調に導いている何よりの理由ではないだろうか。

(執筆:2017年9月11日)

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