浜プランの取組地区数

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小川漁業協同組合

小川地区地域水産業再生委員会

「協力」が生んだ新企画!
地域を変えた、サバの新たな可能性

「地元にある商品を使って、何か加工食品を開発しよう!」こうしたアイデアは、漁業所得の向上を考えるにあたってはごく自然な発想だ。だが、それを実現するために本当に必要なことは、高鮮度処理でも、冷蔵技術でも、出荷調整でもない。新しいことを始めるための「協力体制」と「意識変化」で成功に至った、小川漁業協同組合の取組をご紹介!

目次

漁港の街、静岡県 焼津

「焼津(やいづ)」という地名は、日本最古の歴史書である古事記や日本書紀にすでに登場する。日本の古代史上で伝説的な英雄ともされる日本武尊(やまとたけるのみこと)が、征伐の際に野を焼き払って賊を追いやったとする地であることが、その由来と言われている。

東京と名古屋のほぼ中間に位置する焼津は、北に富士山、西には一級河川 大井川があり、東側は駿河湾に面する。漁港の街とも言われる焼津は、古くから水産・漁業によって発展してきたところで、特に江戸時代からの歴史があるカツオ漁と、その裏作漁業として明治時代から始まったマグロ漁は、焼津の漁業の代名詞になっている。

多くの水揚げがあったことから、食べきれない分を保存する技術も発達し、港の周辺では、かつお節などの節製品や練り製品、缶詰など、水産加工業も多く栄える地域だ。

漁獲の8割をサバが占める、小川漁協

焼津漁港は「特定第3種漁港」、通称「特3(トクサン)」に分類される。トクサンは、全国の水産業の振興に特に重要として政令指定される港で、3000近くある全国の漁港の内のわずか13に限られている。焼津漁港は2つの地区に分かれ、遠洋漁業の基地としてカツオ・マグロを中心に水揚げする焼津地区・新港地区と、沿岸・沖合漁業を中心に営み、サバ・アジ・イワシなどを水揚げする小川(こがわ)地区に分かれている。

この小川地区を管轄するのが小川漁業協同組合だ。焼津というとカツオ・マグロのイメージが強いが、小川漁協が運営する魚市場の年間の水揚量1万2千トンのうち、約8割はサバ類に占められている。1~4月には、“さばたもすくい網漁”でマサバが獲られ、その他の季節には棒受け網漁でゴマサバ漁が中心に行われ、サバのスペシャリストが集まる地といっても過言ではない。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年10月2日開催)

小川を「こがわ」と読んでもらうために

小川漁協が浜プランに取組んだ理由は、極めてシンプルな悩みによるものだったが、同時に難問でもあった。「小川」は一般的には「おがわ」と読むのが普通だ。「小川を『こがわ』と正しく読んで欲しい」、これが叶えられてこそ、この地で水揚げされるサバの知名度の尺度になる。「カツオ・マグロの焼津漁港で、サバが水揚げされることを知って欲しい」ということが、切望される思いだった。

取組みの結果から言ってしまうと、小川漁協が「こがわ」と「サバ」を浸透させるために行ったことは、新商品の開発とPRで、わずか4年間で4種類の商品を販売、予想以上のヒットを生み出し、知名度も含めて間違いなく成功を収めつつある。

だが、だからと言って「どこの地区でも商品開発とPRをやれば知名度は上がる」という単純な話ではないことは当然だ。秘訣はその取り組み方にあり、企画を進めたのは、漁業者でも加工業者でもなく、漁協の総務課にいる女性職員たちだった。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年10月2日開催)

総務課の職員が挑んだ、商品開発

昨今、県内だけでなく、多くの地域で漁協商品が多数開発・販売されており、すでに商品開発の経験がある漁協からしてみれば、やり方はある程度心得ていることかもしれない。だが小川漁協では、そもそもこうした試みも経験もなく、文字通り「ゼロからのスタート」だった。その上、企画の中心は漁協の職員であることも懸念を高めた要因になったに違いない。消費者の目の前には多数の商品が溢れており、生半可な商品では太刀打ちできないことが明らかだった。

自信となったのは、小川のサバにしかない美味しさだった。小川のサバは、さっぱりとした味わいがある。漁協内では定番の缶詰や〆サバなどが開発案として挙がったが、小川サバの特有の味・食感を活かすためには不十分であり、総務課では商品探しから何度も試作が重ねられた。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年10月2日開催)

漁協商品の開発は、「協力」が鍵

PRしたい商品の原料は、“新鮮な”サバだ。そのためには漁師の協力が不可欠だった。総務課から漁業者に対して商品開発の目的を説明し、活き締めしたサバを提供してもらえるようにお願いした結果、暗い中で操業を行いながら、揺れる船の上で活き締めするという過酷な状況下でも、商品用のサバの漁獲に向かってもらえる協力が得られた。

小川漁業協同組合 総務課 職員の大寺素子氏は、漁師との協力なども含め検討を進めるうちに、自分たちの目的として気づいたことがあったと言う。それは、焼津にサバが揚がることを知ってもらうことは当然のこととして、「活動を通じ、漁協内で職員同士が協力する体制を作ること」が必要だということだ。

小川漁協では、持ち場同士の連携が苦手な風潮があった。今回の商品開発についても、「女性職員の趣味でやっている」と理解が得られないことも感じていた。それ以降、総務課の3人の職員を中心に、漁協内の協力を得ながらすすめることが目的として据えられた。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年10月2日開催)

全サバ関係者で生み出した新商品

試作を重ねた結果、平成26年、販売開始が決まったのが「さば干物」と「さば味噌漬け」で、販売に至るまで多くの協力を得ながら進められた。

試作品段階では、活動への理解と協力を得る目的もあって、試食会を総務課だけではなく漁業者や市場部、冷凍部の職員を集めて行われた。また、原料であるサバは漁師が集め、レシピは漁師のおかみさんが作った。レシピ改善には加工業者からアドバイスをもらった。そして漁協の若手職員は、商品ラベルやポスター・チラシのデザイン、在庫管理を手伝った。

企画した漁協の総務課だけでなく、小川のサバに関わる多くの人たちの協力によって誕生したのが、この商品だった。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年10月2日開催)

漁協のメイン商品になった「さばチキン」

商品開発はその後も続き、翌年、平成27年には地元の銘酒「磯自慢」の酒粕を使用した「さば粕漬け」、また平成28年には、より手軽に食べられることを重視し、加熱処理を施した「さばチキン」の販売を開始した。

さばチキンは、漁協の若手中心のプロジェクトチームで開発が進められ、魚が健康に良いことを知りながらも、調理が面倒で遠ざけてしまっている女性層をターゲットにしたものだ。さばチキンの原料となるマサバは、冬に原料確保できることから、効率も良く、年間販売目標は5,000個が掲げられる漁協のメイン商品になっている。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年10月2日開催)

「こがわ」を知ってもらうための販売努力

サバ商品としては全国的にも好事例と言える小川漁協の「さば干物」「さば味噌漬け」「さば粕漬」「さばチキン」は、販売にも力を注いでいる。

毎年10月末頃に開催される「小川港さば祭り」は、今年で12回目を迎える地域の一大イベントだ。1万食の焼きさばを無料配布したり、さばチキンを使ったアレンジ商品を販売したりと、様々な企画で小川のサバがアピールされている。

地元を中心に賑わうイベントでこれだけの実績を残せただけでも成果はあった。だが当初目標として掲げられた「小川を『こがわ』と正しく読んでもらう」「小川でサバが揚がることを知ってもらう」の2つを達成するためには、「普段小川港に来ない人」や「小川を知らない人」にアプローチする必要があった。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年10月2日開催)

「伝える」ためのPR企画、「さばマルシェ」

このとき、漁協内ではすでに若手職員が中心になって動く風土ができ始めていた。小川を知らない人たちに地に来てもらい、サバを食してもらうためには、話題性のあるPRが必要だった。そこで企画されたのが「小川さばマルシェ」だ。

「マルシェ」とは、フランスの一般向けの市場のことで、魚介類をはじめ肉類や野菜、チーズなど様々な食材を扱う出店が並ぶマーケットで、フランスでは食材の購入はスーパーよりもマルシェでされるのが一般的だ。何よりの特徴は、マルシェは単なる「買う場」でなく「交流する場」とされ、商品の特徴やウンチクについての会話が熱くやりとりされるのが醍醐味と言える。

このフランスのマルシェの特徴と、小川漁協が目指す「PR=伝える」という目的が合致するのではないかと考えたのが「小川さばマルシェ」の企画スタートのきっかけだった。

コンセプトは「サバをおしゃれに」

マルシェ企画を担当したのは、漁協の女性職員3名。商品開発のときと同じく、ゼロからのスタートだった。

マルシェのイメージを確かなものにするため、手始めに各地のマルシェへ見学に出向いた。小川の一大イベント「小川港さば祭り」と違ったのは、ゆったりとした雰囲気があり、商品の見せ方もオシャレでこだわりが感じられた。それと同時に、「サバ商品だけで、小川に若い人たちを集めるのは難しい」ことにも気づき始めた。

今まで全くと言っていいほどアプローチして来なかった異なるターゲットにPRするためには、企画のコンセプトから考え直す必要があった。小川港さば祭りと重なる点は、サバ商品があることくらいとし、
・マサバの旬である冬ではなく、来場者にとって気候が良い春に開催
・対話を重視し、売り込みは行わない
・魚屋的な「らっしゃい!」や「水産祭り」ではなく、女性目線のオシャレ感を忘れないこと
などがイメージとして固まり、小川さばマルシェで目指される効果が図のようにまとめられた。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年10月2日開催)

最大の難関、他業種への出店依頼

マルシェにとって欠かせない点であり、かつ最大の難関であったのは、マルシェはサバも含めた他の食材も買える場でなければならないということだった。そのためには、異業種の出店候補者への参加依頼を進めなければならないが、進め方がわからなかった。そこで、同じ焼津市内でマルシェを開催していた先人との打ち合わせ機会を設け、Todoリストを作成し、その他の準備も含めた具体的な作業に取り掛かることができた。

5月の開催に向け、2月から候補者との交渉を開始。「漁協」「小川」「サバ」といったキーワードに縁のある方面から依頼を始め、最終的に19店舗の参加に至った。開催前には、ターゲット層の利用が特に見込まれるFacebookなどのSNSや、フリーペーパーで情報発信を行い集客を図った。

そして迎えた当日、多くの女性層や若年層の集客が見られ、コンセプトとしていたゆったりとした雰囲気での開催が実現した。来場者から好評の声が得られたことに加え、出店者からも「小川でこういうイベントが欲しかった」といった声も寄せられた。

浜の活力再生プラン ブロック推進会議 事例報告資料(2017年10月2日開催)

成果は「作ること」ではなく、「変わること」で生まれる

水揚げの多くをサバに頼る小川漁業協同組合が取組んだ、商品開発とマルシェの企画。ゼロからのスタートだったが、今では他地区でのイベントに呼ばれたり、他業種の商品カタログに掲載されたりと、次第に活動範囲が拡大し始めている。

当初目標として掲げられた「焼津漁港でサバが揚がることを知って欲しい」という点は、その認知が間違いなく拡大している。また、「漁協内・職員内で協力体制を作る」という点も、積極的に連携をすすめた企画のおかげでその風土が出来上がってきた。

浜プランで目標とされる漁業所得の向上にも成果が得られているが、総務課職員で企画を進めた天野歩氏は、取組を次のように振り返る。「漁業者と漁協の協力も含め、昔できなかったことが今できるようになっているのは、人と地域がかわってきたからです。」

新たな商品を開発するにしても、イベントを立ち上げるにしても、その仕組みを作るだけでは物事は進まない。それに関わる多くの人の理解と協力を得られて初めて、その一歩が踏み出せるものだ。そのためには、以前のやり方や考え方、価値観から「変わること」を避けては通れない。小川漁協の取組が好評を得ている理由は、商品そのもの、イベントそれ自体にも増して、漁協、漁業者、市場、異業種など、小川地域のすべての関係者が変わろうと決意し、行動できたからに違いない。

(執筆日:2017年11月6日)

<お知らせ> 『さばチキン』はどこで買えるの!?

コラムに登場した、斬新なコンセプトによって誕生した『さばチキン』。

骨を取り除いた新鮮なサバを蒸し調理しているため、まさにサラダチキン感覚で、パックから取り出したまま、お手軽に食べられる一品です。

そのままパクッとかぶりつくのはもちろん、パンにはさんで「さばサンド」にしたり、身をほぐしてマリネや混ぜご飯具材としても!

「食べてみたい!」という方は、小川漁業協同組合へ直接ご注文いただけます。下のリンクから注文書をダウンロードしてご利用ください!

★ さばチキン注文書 ★
※詳しい商品概要や在庫状況など、各種お問い合わせは小川漁業協同組合までお願いいたします。

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