浜プランの取組地区数

5 5 4 地区
※2023年3月末時点

小笠原母島漁業協同組合 "

母島地域水産業再生委員会

工夫を凝らした鮮度保持で魚価向上
都心から最も離れた島の持続可能な漁業

日本で一番移動時間を要する場所「東京都・母島」。本州から約1,000㎞離れた母島ならではの高鮮度化で魚価向上の取組や地域のニーズに応えるために促進された地産地消などの取組が評価され今回2021年度浜プラン優良事例表彰において水産庁長官賞を受賞した。

目次

東京都最南端の有人島 母島

「東京」と聞くと、都会の喧騒を思い浮かべる人も多いだろうが、そんな東京には意外にも無数の島が存在しており、その中でも人が住んでいる島は11もある。東京から船を乗り継ぎ片道26時間、およそ1,000㎞南へ行くと最も南の有人島「母島」へ到着する。世界自然遺産に指定されている母島は雄大な自然と青く澄んだ海に囲まれている。年間を通して温暖で過ごしやすく、希少な固有動植物のほか、クジラなど珍しい海洋生物を見ることができ、多くの観光客が島を訪れる。島の主な産業は、メカジキ、ソデイカ、ハマダイ、マグロ類などを対象とする漁業やパッションフルーツ、レモン等を生産する農業のほか、海や山のレジャーを軸とした観光業となっている。

生活の基盤を担う漁業協同組合

母島島内で生活必需品や食料品が売られている売店は2つほど。その1つをJF小笠原母島が運営している。食料品はもちろんのこと、日用品なども売られている。
母島は島民450 人余りの小さな島であることから、JF小笠原母島ではこれまで、島外に向けた出荷に重点を置いてきた。一方で島民や民宿などからは、地元水産物の提供を望む声が多くあったが、漁獲物の多くが一般家庭では消費しきれない比較的大型なものであるため、JF小笠原母島において一次加工(柵や切身)を行い、島内で消費しやすい形態に加工することで、地産地消を図った。地産地消という点で地域住民をはじめ民宿などの食事に供される観光資源として、母島地区の観光産業の発展にも寄与している。

小さな島の大きな鮮度保持改革

大型魚の出荷時の梱包資材は高額となることから、これまでは再利用可能な折り畳み式アルミ製魚箱を用いた出荷が行われてきた。しかし、アルミは保温性に弱く、中詰めする氷の保持が十分にできないという欠点を抱えていた。2018年に策定した本プランを契機に、試験的にスチロール板を使用した鮮度保持に取組み始めたところ、その効果が評価され、2015年に1,562円/㎏であったメバチの魚価が が2019年には1,681円/㎏に向上する等効果的な取組となっている。市場の評価やそれに伴う単価の向上が実際に表出したことを受け、漁業者の鮮度保持に係る意識改革が進んでいる。

出漁時の燃料消費の削減による所得の向上

10トン未満の小型漁船による沿岸漁業が主となる母島において、漁業経費における大きな割合を占めるのが燃料費である。このため、JF小笠原母島では、所属漁船の船底清掃や低速航行を推進し燃料消費量の削減に取り組んだ。これまでJF小笠原母島では、都心から南に約1,000㎞というハンディを抱えていることから、出荷方法の改善や出荷資材の安価な仕入先検討による購入費や輸送経費などの各種の経費削減に取り組んできた。高騰著しい燃油費用の影響を緩和するため、セーフティネットへの加入促進による燃油高騰対策を推進するとともに、減速航行の徹底や沖泊り操業による燃油費の削減などを行っている。

新漁法の開発及び新漁場の開拓による漁獲量の増加

未利用資源となっていたイセエビについて、休止していた素潜漁を再開させ、小規模ではあるがイセエビの漁獲量の拡大を図っている。当初は新漁法の開発として、イセエビ籠漁法の導入を模索したが、海底の起伏の激しい母島周辺において、籠漁法が浸透せず、その結果、操業が休止していた素潜漁に原点回帰することとなった。網や籠による漁法の場合は他魚種の混獲や獲り過ぎのリスクを抱えるが、素潜漁という管理の容易な漁法により、不要な混獲の防止や資源管理の徹底につながっている。イセエビは地域内の需要も高いことから、漁業としてのうまみは少ないながらも、地域の声に応えるため、再生委員会として漁業者と協力しながら、イセエビ漁を引き続き支援していく。

自然豊かな母島で持続可能な漁業を

夏にはアオウミガメが産卵に、冬にはザトウクジラが子育てに訪れる母島。そのほかにも昆虫や鳥類といった多種多様な固有種が生息しており、母島では自然との共生の文化が息づいている。今回紹介したのはそのような自然豊かな母島における、地域の特性に根差した取組だ。小さな島の関係者が自分たちで考え、工夫を凝らし、試行錯誤しながら取り組む浜プランだ。今後もその取組の実践に注目したい。

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