浜プランの取組地区数

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※2023年3月末時点

浜プラン優良事例表彰

新潟県 能生・糸魚川 / 熊本県 河内地区 地域水産業再生員会

<受賞者コラム>
全国各地の優良事例を徹底紹介!

2018年3月7日に行われた「浜の活力再生プラン 優良事例表彰」では、全国から8つの再生委員会がその優れた取組みから受賞を果たしました。今回のコラムでは、このうち当コーナーで未紹介だった新潟県の能生・糸魚川地区(全漁連会長賞受賞)、熊本県の河内地区(漁済連会長賞受賞)の各再生委員会の取組をご紹介いたします!

目次

【能生・糸魚川】市場流通から脱却するために

平成18年に4漁協が合併して誕生した新潟県の上越漁業協同組合。その経営は、従来からの鮮魚の市場流通に負うところが多く、水揚げが多い場合には魚価が下がってしまうことが課題になっていた。そこで目指されたのは、加工事業の強化だった。施設整備が進められたほか、平成24年には加工品ブランド『糸魚川のごっつぉ』を商標登録するなどが取組まれたが、事業計画の実効性の難しさなどから、ほぼ休止状態に陥っていた。

浜プランの策定をきっかけに、改めて生産から加工・販売の各部門を一貫して運営することが目標として掲げられることになった。

【能生・糸魚川】一貫した加工体制の再構築

平成27年、青年部など若手メンバーを中心に加工企画員会が再始動。事業計画の策定にあたっては、SWOT分析やPDCAサイクルの確認など、マーケティング手法が多分に取り入れられた。

加工原料として使用されたのは、特産であるベニズワイガニやニギス、マダイのほか、低未利用魚を用いることで、収益性の高い事業が目指されることになった。漁業者は魚に傷がつきにくい「たもすき」で漁獲し、シークーラーにより高い鮮度で水揚げする。また衛生面を考慮し、ほぼ全ての船と市場に滅菌海水装置を設置することで「魚臭くない市場」でのセリが行われている。

加工用原料は、高い鮮度を保つため水揚後すぐに加工工程に入る。鱗・内臓処理やフィレ・切り身加工などの作業室はそれぞれが独立し、衛生面への配慮も怠っていない。処理をしたのち、ドリップしにくい高品質冷凍が可能な3Dフリーザーで冷凍し、真空パック、検品を経て出荷という流れが整えられた。

【能生・糸魚川】マーケティング視点で取組みを推進

『糸魚川のごっつぉ 昆布〆』は、マダイ、ホウボウ、カワハギ、マツガレイ、ナンバンエビなどの昆布〆がラインナップされる主力商品だ。一般家庭向けの商品として販売を始め、品質と味の高さが認められながら販路を拡大し、「にいがた6次化フェア2017」で入賞、また吉本興業がご当地グルメをPRする「47シュフラン(2018年度)」で金賞の認定を受けた。

加工事業の強化に加え、消費者との接点を増やすため、観光業との連携にも積極的だ。セリの場に見学台を設置し観光客を誘致、地元観光協会と連携してツアーにも組み込むほか、夏にはサザエの潮干狩り体験も開催。隣接する道の駅の直売店でお土産を購入できるような流れも作っている。

若手漁業者たちによって立て直しが進められた加工事業の特徴は、抜きんでたマーケティング視点だ。課題の抽出から収益性の確保、ニーズに適した商品開発、販促活動と合わせた販売チャネルの構築など、消費者目線から戦略的な事業構築を進め、漁業所得の向上を実現している。

【河内】海苔の評価が、漁師のやる気に影響

熊本県有明海の沿岸で行われる海苔養殖は、年間生産額100億円にもなる県の主要産業だ。だが、「有明海産」ブランドの恩恵を受ける面もある一方、佐賀県や福岡県に比べると熊本の海苔は知名度が低く、入札価格も低い傾向にあった。

単価の低迷に加え、色落ち被害や燃油高騰と莫大な設備投資により、地区の経営が厳しくなるにつれ、漁業者のやる気も失われていき、悪循環は明らかだった。

「同じ有明産なのに、何が違うのか、どう違うのか、何を改善したらよいのか。」 河内漁業協同組合でまず取り組んだのは、漁協職員指導のもと若手生産者が改めて海苔商社から意見をもらうことだった。

【河内】求められる海苔の品質を、徹底的に追及

情報収集を目的に5年間で約30社を訪問、改善点を生産者と共有し、以降の活動方針となる『河内海苔作りの基本方針』を作成した。網の干出時間の統一など、生産・加工・衛生管理に関する遵守項目を規定した結果、海苔の質・等級がそろい、ロットもまとまるようになった。

さらに、従来の製造方法を見直し、養殖現場から加工現場において、味のある美味しい海苔作りを生産者全員で目指し、入札会毎に求められる海苔を出品し、情報発信を行った結果、河内地区の入札単価向上につながった。

また、熊本の海苔は全量が共販されているが、福岡のある商社を訪問した際、多くの在庫を抱えている現状を知り、「これでは次の年に買ってもらうことはできない」と気付いた。そこで、商社から海苔を買戻し、独自ブランドで商品化することを思い立つ。ブランド商品『塩屋一番』『船津一番』『輝』には、生産者の顔写真が入れられ、販売イベント等で試食を重ねるにつれ、その質の高さが知られるようになっていった。地元菓子メーカーとの商品開発の話も舞い込むなど、努力が実りはじめる。

【河内】地域全体に広がる改善の熱意

ついに平成28年、『塩屋一番』が乾のり初入札会で国内最高値を付ける。そして翌平成29年の入札会でも最も高い評価が得られた。その要因には、海苔のブランド規格として、従来の見た目(黒さ、つや、穴の有無など)に加え、特に「味、香り、柔らかさ」を重視した味検査基準を独自に新設したことがある。商社からの情報収集を踏まえ、消費者ニーズに適した方針を策定し、全生産者がそれに専念した結果だった。

海苔の評価が格段に上がったことにより、所得向上への効果、地域への経済効果には絶大なものがあった。将来への危機感から、自分たちに足りないことへの意見に真摯に耳を傾け、改善を続けた成果だ。漁協と若手漁業者が連携して進めた取組は、その熱意が地域全体に広がっている。

【河内】世界にも広がる「河内産」の海苔

河内漁協の職員で、再生委員会の事務局長を務める嶋田由美子氏は、「河内の全ての生産者は、一度食べてもらえれば『こんなにおいしい海苔にはであったことがない』と言ってもらえる自信と信念を持っている」と語る。実際、『河内』『塩屋』『船津』の名を聞くだけでその高い品質に気づいてくれる人が増えてきた実感がある。また、ブランド指名で漁協に直接買いに来る一般のお客様が確実に増えてきた。

過酷な状況を変えようと幾度にもわたる販売努力と工夫を重ねてきた河内漁協。当初2箱分の買戻しから始まった「おいしい海苔」を広める努力は、国内での成果はもちろん、シンガポールや香港など海外からの注文も入り始めるまでになった。河内産の海苔は、その品質と価値が話題を呼び、たしかなブラントとしてその存在が知られるようになっている。

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